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2008年5月30日 (金)

オーバーラッピング(2)

話は逆上って、ホンダ時代、出張でLAのスタジオに行った時の事です。終業時間になり汚した床を掃除しようとすると猛烈な反発に合いました。ここではそれはしてはいけないと言うのです。

何事かと思い説明を聞くと、お掃除専門に雇われている人がいるから、彼らの仕事を奪うような事はもっての他と言われたのです。下手をすると裁判沙汰にさえなりかねないと言うのです。

なるほど分業が徹底した世界は、はっきりして素晴らしいと思いました。デザイナーは設計に口出しせず、設計者は販売に口出し出来ない。。。しかし本当にそれで仕事が円滑に進むのかという疑問に突き当たります。

日本の企業はと言えば職域の侵犯なんて日常茶飯事です。デザイナーが設計の領域でものを言ったり、設計者がデザインに口を出したり、あげくの果ては販売に関する事にまでデザイナーが注文をつけたりします。言わば職域に聖域のない、互いに干渉し合うオーバーラッピングの世界なのです。

どちらのやり方が人間的なのかは兎も角として、企業にとって効率がいいやり方は明らかなようです。

結果的にいいものが出来るのであれば、多少の自己犠牲をいとわないのが日本人の考え方ですが、あくまでも個人の尊厳(職域)にこだわる西洋型の考え方が韓国含め日本以外の国々では主流となっています。

韓国の友人は、そのウェイトレスに対して職域を守る為のプロフェッショナル精神について忠告したかったのです。

ただ、職域を守り、マニュアル通りの仕事をしても、客に対するもてなしの心、人間に対する優しさ、愛情が欠けていれば人の心には響きません。

高度に洗練された人間関係の中で、互いのミスや欠点をカバーし合う(オーバーラッピング)精神があってこそ、質の高い、人間的で円滑な社会が構築出来るのではないでしょうか。

些細な事ではありますが、客から注意を受けても屈託なく、にこやかに応対するウェイトレスに、世界に類を見ない、あくまでも謙譲を基本とする、日本の精神文化の原点を見た気がします。


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