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2008年6月24日 (火)

経営者の資質(2)

話は30年近くさかのぼって、本田技術研究所のデザイン室が舞台です。当時、新型小型車の開発が行われていました。私は中途入社して未だ2年目のやる気満々の頃で、そのデザインチームに所属していたのです。

これまでの乗用車の概念を根底から覆す、投影面積を最小にし、背を高くして容積を稼ぐというパッケージの車を作るという方向性は出ていたのですが、今までにないコンセプトという事もあってスタイリングは産みの苦しみを味わっていました。取りあえず、候補の絵を何枚か壁に貼ってクレイモデルを作っていたのです。

Cityある日ヘリコプターの音がして、ゴルフ帰りの故本田宗一郎が隠居の身であるにも関わらず研究所に降り立ちました。この場合、まず最初にやってくるのがデザイン室と決まっています。

なぜなら彼自身がクリエーターで、デザインには非常に興味があるからです。部屋に入った本田宗一郎は、いくつか並ぶモデルの中、我々のクレイモデルに注目しました。全体を見渡した後、「わからん!俺にはわからん」と言いながらも、あえて否定する事なくその日は去っていったのです。

その後気になったのか、これまでになく時間をおかずに見に来ました。そして唐突に甲高い声で「この絵の通りに作れ!」と壁に貼ってあった私の絵を指差すではありませんか。大変驚きました。どういう心境の変化か、独特の嗅覚が働いたとしか考えられません。

そうなれば話は簡単です。その通りにするだけでした。社内抵抗勢力も口出しする訳にはいかなくなったのです。社内にも背の高いコンセプトに疑問を持つ人たちがいた事は事実ですが、引退したとは言え、お父さん(本田宗一郎の社内呼称)にだけは逆える筈もありません。

社内コンセンサスが取れた仕事くらいやり易い事はないのです。その後は非常にスムーズに進んで行きました。(続く)


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