世界一の理由
有名経済学者のN氏がTVで面白い事を言っていました。中国での事です。あるトヨタ系自動車関連会社でバンパーを磨いている時、なぜか裏側も磨くのだそうです。いぶかしんだ中国人第三者が、中国ではそのような事はしない、なぜそんな無駄な事をしているのかと聞き正すと、特に意味はない、慣習だからだ、とトヨタの社員が答えたというのです。
N氏はそれを聞いて痛く感心したそうです。日本車のクオリティの秘訣を垣間見た気がしたと、、、私は食べかけの飯を噴き出してしまいました。これを世に噴飯と言います。この人はそんな話を本当に信じているのでしょうか。頭の中を覗きたくなったのですが、コロコロ宗旨替えする事で有名な、この人らしいと言えば、らしいのかもしれません。
量産車における日本車のクオリティは確かに世界一です。それは誰しも認めるところです。これでもかというくらいの緻密な作業の積み重ねで出来ている事は間違いありません。それは全体の好印象、佇まいに貢献しています。つまりプロの目だけでなく、一般の人の目にも、どこがどうとは言えないが、他の国の車と比較して明らかに高品質に映るという訳です。
ところでトヨタはご存知の通り世界一の自動車メーカーです。2007年の売上は24兆円に達し、営業利益は2兆2300億円を誇るのです。それは何を意味するのでしょうか。そうです。徹底的な共通化、共有化、合理化をし、コストを極限まで抑えた結果の数字なのです。
トヨタはルイヴィトンや、シャネルではありません。ブランド料で濡れ手で粟という訳にはいかないのです。量産効果が全てです。もうお分かりでしょうが、そのトヨタがバンパーの裏を意味なく磨く訳がありません。むしろ見えない所や、品質に関係ない所は徹底的に手を抜く事がうまいのです。
一例を紹介しますが、車はデザインが決った後、サーフェースデータをコンピューターで作ります。昔で言うところの線図です。これが直接金型を削って表面の形状を最終決定するのですが、非常に重要なプロセスと言えます。各社とも1000分の1ミリという世界で精度を競うのです。
日本のメーカー各社は世界で最もそのデータの検査が厳しく、プロ中のプロの技が必要とされます。ボディだけで数千万円もかかるのは当然と言えるでしょう。しかしながら意外な事にトヨタはこのサーフェースデータに関しては必要以上のクオリティを要求しないと言います。例えば左右の微妙な違いなどには目をつぶるというのです。
言われてみれば人間の目はそこまで正確な訳ではありません。面が綺麗に通っていてデザイン的に問題がなければデータ自体はどうでもいいのです。但し、品質感に最も重要なパネルとパネルの隙間や繋がりに関しては猛烈にこだわります。更に最終仕上げである塗装技術も素晴らしいのです。
言わば合理性に徹するあまり、むしろ日本的な不必要とさえ言えるこだわりを排したのがトヨタなのです。だからこそ世界一になれたのではないでしょうか。
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