柔らかい土は掘られる
トヨタ自動車の豊田社長が米議会の公聴会へ出席しないと言ったり、すると言ったり、中途半端な対応をしています。はらわた煮えくり返る胸中を察して余りありますが、国も含めた関係者の危機意識の薄さには危惧を覚えざるを得ません。アメリカは国ぐるみで本気でトヨタ潰しに来ていると見るべきです。
そもそも問題が起きた時点での対応の誤りが、全世界に誤ったメッセージを発信しました。中途半端に非を認めるような事をしてしまったのが禍根を残します。日本式の「長いものには巻かれろ」は通用しないのです。堂々と正論を展開すべきだったのではないでしょうか。
その後の日本国内の対応も火に油を注ぎました。危機感の欠片もないマスコミや現政権の野党ボケ大臣が、ろくすっぽ調べもせずに後方から鉄砲を撃ったのです。これでは半信半疑の米マスコミだって良心の呵責なくトヨタ叩きが出来ます。「そら、国内からも責められているお前は、やっぱり悪いのだ」という事になるのです。
今回アメリカで問題になっているくらいの不具合は、GM、フォードでは日常茶飯事です。内容の酷さや対応では、もっと程度が悪いのですが、厳しく追及していたのではビジネスが成り立ちません。従って、米メーカーなどはロビー活動も含めて、政治力でカバーして運営していると言っても過言ではないのではないでしょうか。
いえ勘違いしてもらっては困りますが、私はこの件に関しては全く偏向していません。利害関係がないからです。この商売をしていてそれはないだろうと思われるかもしれませんが、トヨタは国内では、いや世界でも直接取引が期待出来ない数少ない自動車メーカーなのです。
昔間接的には取引した事がありますが、もう10年以上も前の事です。最近別の子会社との話がありましたが、下請けの悲哀を味わう仕打ちに、金輪際取引はお断りさせてもらいました。従って、トヨタ本体ではありませんが、トヨタグループに対して、決して好意的な感情は抱いていないのです。
但し車に対する評価はまた別です。かつてアルファードのハイブリッドを会社で6年に渡り保有していましたが、いい車で愛着が湧いていました。モデルチェンジ後の2.4リッター(PHOTO)は、素晴らしくリファインされていて、トヨタの技術力の高さを再認識させられたのです。日本が世界に誇る、車の未来を切り開くプリウスなどは、車好きにとっての救世主と言って差し支えないのではないでしょうか。他の追随を許しません。
だからという訳ではありませんが、今回だけは、私情を挟まず擁護に回らざるを得ないのです。なぜならそこに正義は全くなく、無理が通って道理が引っ込む事実があるからです。さらに、日本にとってこの問題は座視出来る問題ではありません。日本国の存亡にも関わる重大問題と捉えるべきです。柔らかい土は掘られる悪い例になりかねないのです。
この件で興味深いコメントをあるサイトで発見しました。(以下参照)
TS・チャイナ・リサーチ株式会社 田代尚機
1.保護主義の台頭
トヨタのリコール問題には、とても失望させられた。トヨタに対してというよりも、日本政府や日本の有識者、マスコミに対してである。なぜ“おかしい”と思わないのだろうか。
アメリカの大学で客員教授をしている私の“師匠”から2日、突然メールを頂いた。“アメリカ運輸安全当局からリコールを求められた件について1日何十回もテレビで放送されていること”、“政府資金援助を受けたGMがトヨタからの乗り換えにインセンティブをつける大キャンペーンを実施したこと”、“アメリカ政府が戦略的に関与していた可能性が高いこと”・・・。憤慨していることが文面からよく読み取れる内容であった。
詳しい内容は、2月26日の週刊ポスト、“トヨタ「日米開戦」の難局、アメリカ「国家戦略」の標的に!「GMに流れる技術機密」から「スクープ記者にピュリツァー賞」まで(26〜37ページ)”をご覧いただきたい。ちなみに、師匠の意見が大きく引用されている。
トヨタもどうかしている。本当にリコールされるほどの事故が起きていたのだろうか。リコールに値する問題ではないと考えてきたからこそ、これまで対応しなかったのではなかろうか。お上の意見は絶対だなどと思わず、自社の意見を最後まで主張すべきであろう。国際社会では、何があっても安易に非を認めるべきではない。“ごめんなさい”とあやまれば、ある程度容赦されるという感覚は非常に危険だ。
しかし、トヨタよりも残念だったのは、政府、マスコミの対応である。アメリカ当局の決定を全面的に支持するような発言、トヨタに対して批判的な発言・・・。少なくとも、トヨタは“身内”であり、日本を代表する優良企業である。
もしこれが中国の企業であればどうであろうか。“勝手な憶測で企業に重大なダメージを与えるようであれば、担当者を提訴するなどと当局に迫り、政府を巻き込んで裏交渉を行うだろう”。師匠のご意見である。
その通りだと思う。
小さな政府が時代遅れとまでは言わない。だが、それと政府が国家戦略を持つこと、自国企業の発展を支持することは相反することではない。日本政府は、政府の役割について中国の体制を学んでみてはどうか。
トヨタの躓きは日本にとって決して小さな出来事ではない。
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