永遠にゼロ(前編)
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実は、21日に「永遠のゼロ」を辻堂のシネマコンプレックス、109シネマズ湘南で見て来ました。封切り初日です。その割に60%くらいの入りで観客は多くなかったのですが、400万部も売れたと言う本程は人気が出ないのかもしれません。(他の映画館では満員だったというところもあるそうです)
(リアルな空母赤城のCG 実際の船が航行している映像にCG を重ねたと言う)
真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦に至るまでの最初のうちは、空母などのCG の出来も悪くなく感情移入出来ました。零戦が雄々しくも美しく編隊飛行するところなんざ、日本男児なら誰でも泣けて来るでしょう。筆者も思わずほろっとしたのですが、隣のおじさんはずっと大泣きしていました。三菱の人か(?/笑)
ところが2時間半近くの大作、いい感じを維持するのは難しいのでしょう。単なる家族愛物語付きの反戦映画のようになった後半はさすがにだれました。映画のタイトルが泣きます。お陰で一番泣ける筈の特攻シーンで全く泣けません。
もっと主役の筈のゼロをクローズアップして欲しかったのですが、レプリカなど丁寧に作り込んだ割には粗末に扱われ過ぎです。監督は零戦に対する思い入れが薄いと見えます。原作者の百田さんが監修したと言いますが、本当にこれで納得したとは思えません。
原作に忠実に、特攻隊に焦点を当てたいのは分かりますが、戦争の悲惨さだけでなく、なぜ戦争に至ったか、またその結果としての意義、日本人が当時何を考え何を目指していたのか、等も描かないと特攻隊が国家の犠牲になった哀れな若者達にしか見えず、バランスが悪いものになります。
戦後我々はのほほんと生きていますが、彼らが行った事の意義、価値は計り知れません。その点、個人の福祉が公共の福祉より優先する戦後民主主義と自虐史観に犯された日本より、世界の方がよく分かっているようです。
(約1万機生産されたゼロシリーズの中で6千機も占めた後期型五二型と、そのカモでしかなかった英空軍のスピットファイア)
いずれにしても、タイトルにつられ零戦を見に行った人や飛行機、軍事オタク、あるいは筆者のように従来の戦争ものにない視点を期待した保守系の人はがっかりしたのではないでしょうか。
かと言って恋愛ものとして見る訳にもいかず、日本の映画作りは黒澤監督らの黄金期に比べ下手になったものです。資金的な問題なのか、それとも能力の劣化(?)日本映画を観に行くたびにがっかりします。それでも「男達の大和」「連合艦隊司令長官山本五十六」よりは○
筆者は辛口過ぎるのかもしれません。概して一般の人の評価は高いようです。泣ける映画ナンバーワンの称号は堅いでしょう。映画としての出来はともかくとして日本人は是非見た方がいいと思います。主役の岡田准一が好演、他の男性陣もいい味出していました。原作とイメージが違う女性陣にはやや不満が残ります。
(映画の中で、不時着した零戦のパイロットを救出に行ったのが、この零式水上偵察機でしたが、妙に嬉しくなりました。CG よく出来ていました。)
ともあれ零戦、映画でも描写されていましたが、開戦当初は圧倒的に強かったのです。もちろん腕のいい熟練パイロットが大勢いての話ですが、総合的に見ても開戦時の日本陸海軍は質量共に世界一の軍隊だったと言って過言ではないでしょう。
問題はよく言われるように兵站と人命の軽視です。という事はやはり短期決戦向きだった訳で、大国米相手に長期戦にもつれ込んだ時点で勝ち目はなかったのです。つくづくミッドウェイでヘマをしたのが惜しい。。
タラレバはともかく、ゼロがなぜそんなに強かったのかと言えば、ひとえに小型軽量化の賜物のようです。当時からジュラルミンが使われていたようですが、日本が今も得意とする軽薄短小の元祖かも知れません。
その重量は何と、今で言えば大きめのSUV一台分でしかないのです。その軽量ボディに排ガス対策のない千馬力近いエンジンですから力はあります。(笑)初期の二一型で533キロの最高速度を誇りました。艦載機としては十分な性能です。
しかしコンピューターがない時代、極限までの軽量化は強度や剛性不足、つまり安全性に直結します。経験学的なノウハウが短時間に高性能を実現させたのでしょうが、軍からの要請がメチャ厳しかった事も奏功しました。
「最高速度や上昇力に優れ、圧倒的に長い航続距離を持ち、さらに高い旋回性能と空戦に優越する破壊力を持つ事」です。それを航空母艦から失速する事なく離発着させなければならないと言うのですから無茶です。何かは犠牲にしなければなりません。
言うまでもなく、装甲と人命がおろそかにされたという訳です。攻撃に勝る防御はないと言いますが、正にそういう思想で作られました。ゼロを必死に研究した敵が新鋭機を投入して来るまではそれでも良かったのです。
(初期型の二一型零戦、飛行機後進国と思われていた日本が、いきなり凄い戦闘機を投入して、英米を驚かせた。堀越二郎は天才か?)
それにしても航続距離の2200キロ(予備タンク装備で3350キロ)は圧倒的です。同じくらいの大きさのスピットファイアで1500キロ、1.5倍の重量のグラマン4F4ワイルドキャットで1240キロ、メッサーシュミットなどは予備タンクすら設計上の問題で設定がなく600キロくらいですから悲惨です。
もっとも、そのお陰でロンドン市民は助かりました。もしメッサーシュミットに零戦並の航続距離があったなら、戦局は全く違っていたのではないでしょうか。ドイツらしくないです。いや、意外にそんなもんかな。(笑)
1000キロを飛んでホームの敵と互角以上に戦い、また1000キロの道を帰る零戦の航続能力を現在のクルマに例えればハイブリッドカーしか思い当たりません。ハイブリッドカーに予備タンクをつけて走っている姿を想像して下さい。
そのクルマは、ゼロ400メーター15秒以下、最高速200キロ以上、一回の給油で1000キロ走り、さらにスポーツカーのように軽快でキビキビ走り、おまけに視界がよく車庫入れが楽と言うお化けのようなクルマです。
その場合も絶対的な要件は小さい空気抵抗と軽量化である事は明らかなのですが、航続距離1000キロだけは別次元です。通常のレシプロエンジンのクルマではあり得ません。
しかしながらハイブリッド化して1000キロ走れても、ハイブリッドにする事により余計な部品が増え重量が重くなりますから動力性能や旋回性でガソリン車に優越出来ないという訳です。
待てよ〜。プリウスから安全装置や快適装備、また排ガスクリーン化のデバイスを全て取り去れば、ある程度キビキビ走るようになるか(?)それでもスポーツカーの性能は無理かもね。。(笑)
そう考えると零戦は不思議な工業製品なのです。矛盾している性能を見事に両立させています。プリウスの航続距離を持ち、フェアレディZのようにアグレッシブに走れるのに、Nボックス並の取り回しの良さ、と言うのですから実現すれば奇跡と言うしかありません。
(筆者の好きな重巡洋艦「那智」スリムながら均整のとれた美しさがある)
さらに特筆ものは、そのデザインです。軍艦などもそうですが、日本の兵器デザインは秀逸です。機能を極めると美しくなるという事だけでは片付けられません。ある意図を持って設計しない限りああはならないのです。
設計とデザイン、本来これも相矛盾する要素になり得ます。そう言えば、筆者のメーカー時代に面白い話がありました。あるセンセーショナルな車の開発の時です。一人の優秀な設計者が「最初に優れた技術がありきで、それを何に活用するかで製品が決まる」と言うのです。筆者がひっくり返ったのは言うまでもありません。
長くなりました。次回に続きます。
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コメント
シリーズタイトルが「永遠の0」ではなく「永遠に0」。意味深であります。
後編ではどのような仕掛けが有るのか。これまた...ふふふ です。
HVのお話で頭が混乱していましたが、零戦とのアナロジーでそのピーキーさが良く判りました。
また、重巡洋艦「那智」のフォルムは武具を包む「城」を連想させます。案外設計された技師さん達のこだわりでしょうか? 自衛艦にも共通したフォルムを感じます。
投稿: toro | 2013年12月26日 (木) 19時44分
自衛艦、ちょっともの足りないです。造船屋さんに昔の軍艦をもっと勉強して欲しい。駆逐艦もセクシーで良かったですよ〜。(笑)
投稿: 田中 徹 | 2013年12月26日 (木) 22時29分
> (筆者の好きな重巡洋艦「那智」スリムながら均整のとれた美しさがある)
・・・「那智」は旧日本海軍の重巡洋艦です。で、同型艦は以下の4隻
• 妙高
• 那智
• 足柄
• 羽黒
であり、主たる設計責任者は平賀譲造船官とのこと。
なお約70年前の世界大戦終結後、平賀さんその他の造船技術者の方々のかけがいの無い膨大な軍艦設計資料の散逸を防ぐ為に自らが艦船設計技術者でいらした福井静夫氏(福井威夫・・・ホンダ6代目社長・・・現社長・伊東孝紳さんの前任者)の父君が日本の高度な技術記録資料を後世の日本を担う人々への技術的アイデンティティの証明として技術資料編纂された・・・と聞いております。
投稿: AZ生 | 2013年12月27日 (金) 18時18分
永遠のゼロ…
永遠の隼も忘れないでおきましょう…なんちゃって。
堀越さんは同じ”栄”エンジンを使った隼Ⅱ型が515km/Hに対し零戦は565km/Hの最高水平速度なので、機体設計に於ける空力的洗練のレベルが遥かに上であると認識(オッホン!)されていらっしゃいましたが、まあ正しいのでしょう。
南方航空作戦にての隼戦闘機隊空戦記録で忘れがたい情景が私の脳裏に残っています。
ビルマ上空での、英空軍スピットファイアー/ハリケーンの混成部隊と隼編隊とのくんずほぐれずの大空中戦にてキラッと光った物があったのですが、空戦終了後に確認するとパゴダの金ぴか屋根だった…というお話。。。その隼のパイロットは生き残って戦中の空戦記を書けたのですが撃墜され未帰還の日英航空隊も大勢いらっしゃったのでしょう。母方の叔父が隼の整備兵をやっていたらしき・・・
投稿: AZ生 | 2014年10月15日 (水) 16時31分
永遠のゼロ
この『永遠のゼロ』と『風たちぬ』との映像をDVDで鑑賞しました~なんと約1年遅れで(*^.^*)。
永遠のゼロ
空母赤城がひたすら美しく、色々なアングルで船体が見られて感動、煙突が水平に建造配置されている事が確認できて嬉しかった。
…生還を家族に約束したのにも拘わらず敵空母に特攻した宮部 久蔵を演じた俳優(歌手?)・岡田准一と、その妻を演じた女優さんが大変素晴らしかった。
…零戦の編隊飛行の映像がもっとフンダンに出てくれば完璧。
風たちぬ
大人向けのメルヘンと思えば是はコレでいいのでしょう。ま、草食系男子とか病弱な女学生には良い夢物語。イタリアの飛行機設計家のカプローニと夢の中で語り合い、亡くなった菜穂子とも夢の中で再会するところが…なにやら癒されました。 以上
投稿: AZ生 | 2015年1月16日 (金) 08時41分