誰がための自由貿易なのか(中編)
---日米 FTA/消費増税 /カジノ解禁に反対します ---
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自由貿易は言わば一種の麻薬です。(笑)最初はいいのですが、深みにはまると抜けられなくなります。例えば日本は自動車生産が得意だからと言って、世界の半分くらいも供給するようになるとしましょう。来年の世界生産台数が1億台として約5000万台も作るという仮定の話です。
日本メーカー全体で、昨年は海外で2000万台くらい作っていますから国内生産分の1000万台を合わせると3000万台、つまり後の2000万台を追加して国内で作る事になります。その場合雇用が関連企業も合わせると百万人単位で増える事になるのですが、生産年齢人口が減る中で人の手当をどうするかが問題です。
ご存知のように自動車産業のような資本集約型の製造業は生産性がかなり高い部類に入ります。従って政府が推進する「生産性の低い産業から生産性の高い産業への人の移動」を進めればいいのです。つまり労働集約型の農業やサービス業から人を引き抜く訳です。
農業なんて時代遅れな産業は中国やアメリカに任せ、輸入に頼ればいいじゃないですか。(笑)飲食、介護・福祉、運輸などのサービス業も海外に人ごと依頼しましょう。移民を推進する安倍さんは我が意を得たりです。
技術はあるが効率の悪い中小製造業者も輸入に切り替えれば問題ありません。その結果、倒産が激増しようが経営者が自殺しようが知った事ではないのです。弱者はどんどん切り捨てましょう。
その結果、自動車の輸出増加分だけで40兆円も外貨を稼ぐ事になります。反対に農業他での輸入はその半分もいきません。差し引き20兆円以上も儲ける訳ですから安倍さんがホクホク顔になる事は請け合いです。調子に乗って下手だけど好きなゴルフの腕も上がるかもしれません。
ところが貿易黒字が20兆円も増えると所得収支の黒字も合わせて40兆円もの経常収支黒字になります。当然ながら円高がバンバン進む事になるのです。前回も言いましたが、その場合、輸出企業はコストダウンを強いられます。
しかし、それもニッサンのように、高い国内の部品メーカーを切り捨て、海外から部品を調達すれば問題ありません。従業員のベアも泣いてもらえばいいのです。さらに正規を減らして派遣社員を増やせば何とかなります。さあ頑張りましょう。贅沢は敵です。勝つまでは欲しい物を買うのも我慢するしかありません。
次の年のGDPを見た安倍首相は真っ青になりました。あれだけ輸出が増えたのに名目成長率はガタ減りなのです。特に内需が酷い事になっています。デフレも反って酷くなりました。これは未だ努力が足りない、という側近の助言を聞いた安倍さんは国際競争力をつけるため、関税は全て撤廃すると言い出します・・・非関税障壁も米の言うがままに改善?して行くしかありません。
自由貿易、バリアフリー、何と響きの良い言葉でしょうか。あらゆる規制を撤廃し、外資が参入し易くするのは当然です。その結果多少空気が汚れようが、サービスの質が落ちようが、移民が増える事で治安が悪くなろうが大した問題ではありません。経済成長こそが至上命題なのですから。。
しかしながら、計算するまでもありませんが、限られた資源の中での輸出(外需)依存は内需を減らします。ただ外貨は溜まりますから、円高も手伝って輸入はし放題です。ビトンやシャネルなど舶来の高級品がバンバン売れます。(いつの時代やねん)その結果は増々内需が減りGDPが下がって行く事になるのです。
気がつくと世界で一二を争う輸出大国にはなっていましたが、内需が振るわず国民生活は窮乏を極めます・・輸出企業の社員だけはもちろん高級取りでしょう。優雅な生活も可能な筈・・・と思いきや、大半が非正規社員に化けていて、相変わらずウサギ小屋に住みセコい生活を送っていました。
一方、経営者だけはゴーンさんのように20億30億の報酬を得てメチャ優雅にしているのです。中には100億の収入を得たとドヤ顔をしている在日系貿易商社トップが、TVなどでアグネス・チャンも真っ青な豪邸や趣味の悪い贅沢品のコレクションを披露、自慢しています。格差が致命的に広がりました。もう取り返しがつきません。
(ビバリーヒルズの23億円もする豪邸、イメージ画像)
上の話は極端な例なので、ちょっと乱暴だと思われるかもしれませんが、効率のいい輸出産業を増やし、農業のような効率の悪い労働集約型産業を減らして行くと内需産業が衰退し、結果的にはGDPを減らす事になります。何よりも国の形が変わり、食の安全が損なわれるのです。
さらに国際水平分業は品質や部品の安定供給という点でも問題があります。災害や戦争だけでなく、ちょっとした政治的な問題でも供給に制限を受ける場合があり得るのです。ところが日本式垂直統合型は技術漏洩や、相手方政府が介入する等、競合国のアンフェアなやり方で崩壊しつつあります。
この自由貿易が行き着くところは先進国と途上国が一体化する国境のない世界です。世界が経済共同体になります。そればかりではなく運命共同体にもなりかねません。今盛んに言われているグローバリズムとは、それを推進するためのイデオロギーなのです。自由貿易や市場原理主義を、その手段として推進します。
もちろん、日本という狭い枠におさまらず、グローバル化こそが人類の理想だという人にとっては最高の話かもしれません。ところが私のように日本を愛し、日本的なものを残して行きたいと願う一小市民にとっては、最悪の世界がグローバリズムによって作られるのです。
この話は未だ続きます。
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