誰がための自由貿易なのか(最終編)
---日米 FTA/消費増税 /カジノ解禁に反対します ---
ブログランキングに参加しています。
さて、そろそろまとめに入らなければいけません。結局、自由貿易は黒字でも赤字でも問題があるという話はご理解いただけたのではないかと思います。では一体誰のためのものなのでしょうか。
黒字が巨大化すると貿易摩擦を生み、相手国から手酷いしっぺ返しを食らいます。さらにその結果としての円高は企業の収益を悪化させ、従業員の給料を減らすのです。少なくともベアは望めません。その結果はデフレが進む事になります。
赤字は赤字でデフォルトのリスクがあり、97年アジア通貨危機の時の韓国のようにIMFが干渉して国が引っ掻き回されたりするのです。従って一番いいのはプラマイゼロのフィフティ・フィフティという事になります。
売りたいものと買いたいものが等価で、間に通貨を介さない事が平和だという事は論を俟ちません。つまり分かりやすく言えば物々交換です。例えば自動車の生産が国内の需要を超えたなら、それを日本にはないキャビアやマンゴと釣り合う量で交換するのです。
価値を測る単位はもちろん通貨で問題ありません。年単位で見て過不足が出れば借用証を書き、期限を切って納品します。そのやり方なら通貨を介さないので、永遠にお金を借りっ放しなどという事にななりません。金融が入り込まないのも健全です。
(ホンダNSX この車は米国製になる。)
海外で一度上手く売れたからと言って、相手により沢山売る事を前提に生産計画を立てるという拡大再生産的思考は、どう考えても感心したものではないのです。国内へのメリットは限定的だし、資源の持ち出しにもなります。
例えば折角の高性能でエモーショナルな自動車という資産が海外へ持っていかれたら、メリットは海外の方が大きいのです。それを使って労働の生産性を上げる事も可能だし、快適なカーライフも満喫出来ます。
売った側は結局お金、円と外貨しか残りません。円なら国内に腐る程あります。だったら何か他の付加価値に替えて国内向けの資産や消費に置き換える方が余程日本の為になります。
余った外貨も何度も言うようですが、米国債などに化けて米に還元され、米の景気に貢献したりするのです。何のこっちゃです。お金を稼いだ方が貧乏で、借りた方がリッチな生活をすると言うおかしな現象が起き得るのです。日米の生活レベルの格差がそれを物語っているではありませんか。
一方、為替の変動と貿易摩擦を嫌って海外に生産拠点を移した場合も相手国にメリットが大きく、自国には大してないという事を前回書きました。何より経済格差が縮小し投資国の相対的貧困化が進みます。中国や韓国のような日本を敵視している国との格差が縮まるのは安全保障上好ましくないのは自明です。
(ホンダの米国の生産拠点/オハイオ州メアリズビルに設立された、パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター)
以上の事から、やはりどう考えても海外との関係は限定的にすべきという結論に至ります。基本的な考え方は相互主義です。足りないものを補完し合うだけというのが健全な関係です。日本の場合なら今現在足りないエネルギーや天然鉱物資源を輸入で補う程度でしょうか。それでも年に25兆円くらいにはなります。
その資源を買う為、外貨を同額稼ぐ事が出来るだけのものを輸出をするという考え方なら今日のような金持ち貧乏にはならなかったのです。しかし、民間企業にそういう考え方を押し付ける事は、一党独裁でも共産主義でもない日本には出来ません。
ところが放置すれば生産性の高い産業は天井知らずで貿易黒字を重ねかねないのです。そこに罪悪感は微塵もありません。一般常識としてお金を稼いで悪い事などないからです。そこをどうコントロールするかが悩ましい問題です。
国民にマクロ経済をきちんと理解させる事も重要ですが、なかなか困難な作業になります。それよりは需要を作り、目を国内に向けさせる方が簡単ですが、政府自身が変わらなければどうしようもありません。
その為にはマクロ経済の正しい知識を持ったエコノミストがかなりな数、(少なくとも過半数)必要になるのですが、残念な事に今のところそんなに大勢はいません。(笑)さてどうしたものでしょうか。
ここで読者の方からのリクエストでもあるアベノミクスにも少し触れておきます。当初鳴り物入りだったアベノミクスに保守派やリフレ派と言われる人達は、これでやっとまともな国になると随分期待したものでした。
こういう書き方をすればもうお分かりでしょうが、結果ははっきり言って残念なものに終わっています。終わっているという言い方は未だ早いのではと思われるかもしれませんが、見通しとして真っ暗という意味です。(笑)
(国土強靭化計画の生みの親、京大 藤井教授)
当初は2%のインフレをターゲットとした異次元金融緩和だけでなく、国土強靭化計画という財政出動がセットでした。さらに内需拡大を高らかに唱い上げていたのです。消費税の増税に関しても、決して前向きではなかったと言えます。TPP に至っては反対していたのです。
それがいつの間にか国土強靭化計画という言葉は死語になり、内需拡大も名ばかりのものとなりました。そればかりか真逆の政策を次々に打ち上げています。インフラ輸出、観光立国、TPP、これらは全て外需です。基本的に、外需依存と内需拡大は両立しません。
さらに、外需依存策を進めた結果は常に円高圧力がかかります。デフレも昂進しかねないのです。それでは今まで通りです。こんなバカな話があるでしょうか。これで成長しろという方が無理です。しかもそれを否定する人が政府やマスコミ関係に誰もいないのですから、先ほども言いましたようにお先真っ暗なのです。
これから分かる事は安倍さん、いや日本政府はとっくに変節したという事です。最初だけは志しが高かったのですが、どこかで逆行のギアが入りました。つまり前回も言いましたように誰かの代理人に堕したのです。
構造改革や規制緩和も同じ流れです。内需産業より海外資本参入を優先している証です。ファイア・ウォールのない日本に利益にしか興味がない市場原理主義経済の申し子である多国籍企業が押し寄せます。
安倍政権はそれらの水最案内人です。国内にトロイの木馬を建設していると言えば分かり易いでしょうか。それが出来上がる前に、何とか破壊して日本が日本らしく存続出来るようにしなければならないのですが、残された時間は多くはありません。
結局誰が為の自由貿易か、あるいはグローバル化かと言えば、国際金融資本を含む多国籍企業のためと考えるのが自然です。彼らは自らの利益のために、資金力で政治をも動かします。80年代以降は米政府を傀儡にして日本へ圧力をかけ続けて来ました。
日本にももちろん多国籍企業があり、世界で利益を得ている事はご存知の通りです。ただ日本企業の場合は相手国に溶け込む事に抵抗はなく、決して傍若無人に振る舞ったり身勝手な要求をする事もありません。しかしながら功罪で見れば日本にデメリットが多いのも事実なのです。
さらに、肝心な国の形が保てないのであれば何をやっても意味がありません。それどころか健全な国民生活さえ脅かされます。それだけは避けたいのですが、残念ながら今日本が進んでいるのは逆の方向です。
念のために言っておきますが、だからと言って自民党以外の選択肢があるのかと問われれば、ノーと言うしかないのです。自民党は明らかに米の傀儡ですが、他の党は日本維新の会などの一部を除き在日が代理人を務める中韓の傀儡と言って差し支えありません。
昨今のマスコミを賑わすスキャンダル、ドタバタを見れば明らかです。従って、究極の選択を迫られれば、一縷の望み、可能性を残している自民党を選ばざるを得ません。
長いシリーズにお付き合いいただきまして大変有り難うございました。未だ書ききれないところはありますが、きりがないので一度終わらせていただきます。
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 円安で国が滅ぶと騒ぐ愚かな人達(後編)(2022.12.12)
- 円安で国が滅ぶと騒ぐ愚かな人達(前編)(2022.12.05)
- いまだによく理解されていないお金の話(2022.06.27)
- これだけ痛めつけられても何も変わらない基本的経済マインド(2022.06.15)
- 近況報告とEV その他(2022.05.19)
コメント
田中様ありがとうございます。私もさっと読んだ限りでは、ほぼ同意見です。少し考えただけでもわかってはいるのですが、どう考えてもアベノミクスが成功しているなら、政権よりのメディアが繰り返し強弁するはずなのに全く触れない事からそうであろうと思っていました。ただし自民党以外の選択肢を選ばないという事は思考停止ではないかと少し疑問にも思います。私は蝙蝠のように自分と全く違う意見でもしっかりと聞き情報を貰い自分の考えを深めたり修正したりしたい性格です。ですから自民党が米の傀儡なら、中韓の傀儡でも納得できない憲法改正に関して歯止めをかけたいところがあります。
決して言いがかりをつけたくてしている訳ではありませんが、感じが悪かったらすみません。
時間を見つけてもう少し読み込みたいので今回の一連の内容は一か月位変えたり削除しないで貰えると助かります。
投稿: nao | 2017年6月 2日 (金) 21時36分
naoさん
じっくり研究してみて下さい。今のところ加筆、修正する気はありません。
もちろん削除もしませんから安心して下さい。
投稿: 田中 徹 | 2017年6月 5日 (月) 09時35分
田中さんご無沙汰しております。早く続きがアップされないかと楽しみに読んでおりました。「なぜ反日国は誕生したのだろうか」シリーズから今回の「誰がための自由貿易なのか」は最高でした。引き続き発信して下さい!
投稿: 女性読者 | 2017年6月 6日 (火) 01時47分
女性読者さん、有り難うございます。そう言っていただけると励みになります。
今プライベートで少し忙しいのですが、時間が出来たらまた書きますのでご期待下さい。
とは言っても、あの二つのシリーズ以上のものは、なかなか出せないかもしれません。
投稿: 田中 徹 | 2017年6月 6日 (火) 07時53分
田中様、反日国家と自由貿易の件、大変な力作、毎回面白く読ませて頂きました。有難うございます。
過日、仕事の関係で国連(連合国)のNGOの人(日本人)と会い、3時間ほど話をしました。その人の話では、米国の政治家や経済人は敗戦後の日本を99年間の植民地とみなしており、後29年間は日本を適当に肥らせて、毟り取るつもりでいるのだそうです。日本を正当に評価しているのは軍関係の人達だけだそうです。
この話を聞き、今までの日本の政治経済防衛などの政策の矛盾を理解することが出来ます。全く米国に操られてきたのですね。
反日国の中華人民共和国は日本とはほとんど戦ってはいません。主に蒋介石軍と戦い、毛沢東の八路軍は逃げてばかりいて、力を温存していたのです。また朝鮮半島は日本が併合し、日本として日本軍として一緒に戦った同士でした。しかし日本の敗戦後は中華民国が中華人民共和国に取って変わられて、何故か戦勝国として国連でのさばっています。戦勝国でもなく選挙も出来ない国が何故常任理事国で在り続けることができるのか謎です。
一方、朝鮮半島は南北に分割統治され北は露中の支配下、南は米国の植民地となって、日本と同じ扱いになっています。しかし米国のずるいのは韓国を日本に面倒みさせていることでしょう。日韓基本条約では半島への財産権の放棄とともに多額の協力金を支払わせられました。その後も韓国のインフラ整備や経済危機になると救済させられました。また戦後の日本国内では残留朝鮮人による乱暴狼藉、共産党と組んで暴力革命を起こそうと運動しました。朝鮮戦争時は多くの朝鮮人が戦禍を逃れて密航してきました。日本は今でも朝鮮人難民の問題を抱え苦労をしているのです。しかしこれらの問題は、私見ですが、多くが米国の「朝鮮人甘やかせ政策」が基本的な問題だと考えています。20世紀初頭から欧米各国は朝鮮半島は彼らにとっては煮ても焼いても食えない地域と知っていて、それを日本に押し付けて安定化させたのです。お人好しの日本は35年間の併合で南を農業で、北では水力発電所を多く造り、東洋一の肥料工場やその他の工場で工業地帯に変えたのです。
現在韓国が日本に対して好き勝手な事をやれるのは最後は米国が日本をへこませてくれた事の事実と、米国が余りにも甘やかせてきた結果だと考えます。
今現在、日本政府の政策でオカシナところが多く有って、何でだろうと思う事が多くあります。しかし、これは米国の思惑を忖度したものと考えると得心できます。覚えている人も多いと思いますがあの田中角栄さんが米国の石油メジャーと米国の罠に嵌められて、裁判を歪めてまで有罪とされて以来、我が国の政府や政治家、経済人、マスコミ関係者は世界に対して堂々と正論が言えない状況となっています。
先に書いたNGOの人とこのような話をした後、ナベさんこの状態が後29年は続くよと言われうんざりしています。
その人もこの状態を孫の時代まで続ける訳にはいかないと嘆いていましたが、知恵が有って腹の据わった政治家を待つしかないのでしょうか。
投稿: ナベ | 2017年6月 6日 (火) 11時57分
ナベさん、貴重な情報を有り難うございます。
しかし、本当に29年で済みますかね?それで済めばめっけものという感じがしますが、何かの節目にでもなるのでしょうか。
いずれにしても連中が考えている事は、私のような凡人には理解不能です。
投稿: 田中 徹 | 2017年6月 7日 (水) 19時04分
それでも安倍さんはよくやっていると私は思います。腹の据わった政治家の出現を期待しますが、なんと言っても民意が重要です。真実を国民が共有できるようになることです。国際金融のことや中国の思惑などまだまだ一般には知られていません。移民問題も財政赤字の大嘘もまだ拡散していません。まして自由貿易の罪悪については知る由もありません。私も初めてこのブログで勉強したくらいですから。確かに絶望寸前ですが、地道に拡散していくしかないでしょう。田中様もネット番組でも出演されればと思っています。
シリーズおもしろかったです。ありがとうございました。
投稿: 八丈島 | 2017年6月 7日 (水) 19時24分
時間を見つけてもう少し読み込みたいので今回の一連の内容は一か月位変えたり削除しないで貰えると助かります。・・・以上投稿: naoさん | 2017年6月 2日 (金) 21時36分
「なぜ反日国は誕生したのだろうか」シリーズから今回の「誰がための自由貿易なのか」は最高でした。引き続き発信して下さい!・・・以上投稿: 女性読者さん | 2017年6月 6日 (火) 01時47分
田中様、反日国家と自由貿易の件、大変な力作、毎回面白く読ませて頂きました。有難うございます。
・・・以上投稿:ナベさん | 2017年6月 6日 (火) 11時57分
それでも安倍さんはよくやっていると私は思います。腹の据わった政治家の出現を期待しますが、なんと言っても民意が重要です・・・以上投稿: 八丈島さん | 2017年6月 7日 (水) 19時24分
・・・皆様すばらしいですね!私は上記の方々のコメントに賛同致します。勿論田中さんの熱意とコンセプトは今現在、我が国の差し迫った実施すべき建設的な方針・近未来ビジョンとして非常に重要な課題である事は論議を待たない見事な分析及びマトメを示唆してあります。
投稿: AZ生 | 2017年6月 8日 (木) 05時02分