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2017年7月21日 (金)

日欧EPAの正体

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---日米 FTA消費増税 /カジノ解禁に反対します ---

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 日欧EPA(経済連携協定)について前回書きましたところ、結局関税ゼロになって日本製自動車部品が安く手に入ったところで相手側に大したメリットはないのでは?という読者の方から問いかけがありましたので、今日はそれについて書く事にします。

結論から言いますと、計り知れないメリットが欧州側にあると言って過言ではありません。その内容もかなり不平等で、まるで黒船の時代に戻ったかの様です。日本は一部の部品メーカーが潤うだけです。ずる賢い欧州人によって、人がよく間抜けな日本が食い物にされていきます。誰もその事について書かないので私が書く事にしました。(笑)

先日も欧州の自動車メーカーが日本製の優秀な部品なしでは既に成り立たないところまで来ているという話はしました。溶接ロボットなどの生産設備から小さな車載半導体に至るまでです。勿論欧州でも作れない事はないのですが、信頼性という点で日本製にアドバンテージがあります。

ものによっては性能そのものにも大きな差があるのです。例えばVWやアウディが採用しているDSG(一般的にはDCTという/デュアル・クラッチ・トランスミッション)は最初日本のアイシン製を使っていました。それをなぜか途中で自社製に変更したのですが、不具合が多く事故が頻発、最終的にアイシン製に戻しています。

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(VWのDSG デュアルクラッチ方式は不具合が多いので、トルコン方式の10速ATに取って代わられるか?)

これはスポーティな高級車にとっては非常に重要な部品です。精密さが要求される高価な部品で、加速性能に大きく貢献します。あのプライドの高いポルシェでさえアイシン製ATを採用しているくらいですから、正に背に腹は替えられないという訳です。フィアット、MINI、オペル、ボグソール、サーブ、ヴォルボに至っては自社製さえなく100%アイシン製です。

さらに小型車に多く採用されるCVT(無段変速機)は日本製が90%以上と独占状態です。CVT車の多い日本車以外ではアウディA4 等に搭載されていました。日本のジャトコが世界トップのシェア(約50%)を持ちます。ジャスコではありませんので、念のため。(笑)

その他の部品、素材まで言い出すときりがないので、従来車に関するものはこれでやめておきますが、欧州の悔しさ、焦燥感が少しはお分かりいただけたのではないかと思います。立場が逆転して久しいのです。

さて、これからが本題です。ドイツは30年までに、フランスは40年までにガソリンエンジンのみ、あるいはディーゼルエンジンのみで走る車を全廃すると言い出しました。スウェーデンなども追従する構えです。NOx等の排ガスで汚れた欧州の空をクリーンにすべく、劇的な変革の嵐が吹き荒れようとしています。

一頃言われていたような完全EV化ではないようなので、欧州車ファンの一人としては一安心しました。それなら歓迎すべきと言うしかありません。インチキクリーンディーゼルではユーロ6や、それより厳しくなる日米欧の排ガス規制をクリアする見通しがないと踏んだのでしょうか。それともマツダから特許を買うのに抵抗があったか。(笑)

いずれにしてもライバル日本の様にハイブリッド車とEVへのシフトが始まります・・・と、簡単に言いますが、これまでハイブリッドを散々バカにしていた欧州が急に180度も舵を切れるものでしょうか。コンセプトは作れても、あるいはそれらに適応するボディは作れても、部品はどうするつもりなのでしょうか。

社内は勿論、いきなりの大量発注に対応出来るサプライヤーが存在しているとは思えません。これから体制を整えるにしても大変な話です。欧州ブランド全体(独、仏、伊、英、瑞典)で年間2508万台も生産しているのです。因に日本ブランド2818万台、米ブランド1872万台です。(後は弱小につき省略)

規制対象外の途上国向けを除き、少なく見積もったとしても駆動用モーターが一台一個として1500万個程度は必要になるのですから、気が遠くなるような話ではないでしょうか。とても実現可能とは思えません。

そこで世界のハイブリッド車やEV関連の部品メーカーが今現在どういう構成になっているのかを確認します。まず肝心要の駆動用モーターですが、

1)モーター

   1.    明電舎
 2.   コンチネンタル(独)
   3.    日本電産
   4.    SIM-Drive(日)
   5.    安川電機
   6.    東芝
   7.    日産自動車
   8.    トヨタ自動車
   9.    ホンダ
   10.    ボッシュ(独)

ほぼ日本メーカーの独占状態(94%)ですが、この体制で今現在年間300万台程ですよ。(笑)今後は日本も増産するだろうし、もの凄い数になりそうです。 1500万台は本当に十数年で準備可能な数字と言えるのでしょうか。

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(永久磁石を使わないSRモータ/トラクション用/日本電産)

2)リチウムイオン電池

Ⅰ、パナソニック
2、サムスン(韓)
3、LG Chen(韓)
5、ソニー(村田製作所)

後は中国メーカーの乱立状態です。いずれも日本の技術が流出したもので欧米の存在感はゼロです。リチウムイオン電池の材料関連になると殆ど日本メーカーの独占状態です。こちらも量的問題が解決出来るとは思えません。さらに細かく見ていきます。

3)永久磁石

   1.    信越化学工業
   2.    日立金属
   3.    TDK

 4)モーターコア

 1.    三井ハイテック
  2.    黒田精工
  3.    ニッパツ

5)角度センサー

 1.    多摩川精機
  2.    日本航空電子工業

6)磁石合金

 1.    昭和電工
  2.    三徳

7)電磁鋼板

 1.    新日鉄住金
  2.    JFEスチール(日)

これで明らかなように、日本以外でちゃんとした自動車駆動用モーターが作れる国が存在するとは思えません。さらにハイブリッド車やEVの血管と言えるワイヤーハーネス(シェア90%以上)やインバーター(ほぼ100%)となると日本の独壇場です。欧米の存在感ゼロというのですから、本当にどうするつもりなのかと敵の事ながら心配になります。

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    (住友電工の自動車用ワイヤーハーネス)

もうお分かりでしょうが、オーンゴールとは言えディーゼルを諦める事で大変なハンデを背負い込んだのが欧州の自動車メーカーなのです。打開策はただひとつ日本から出来る限り多くの部品、材料を安定供給してもらう事です。一部中国製、韓国製もありますが信頼度の点では日本製と比較になりません。

欧州勢は自前の供給体制が整うまでの間は、何が何でも日本から売ってもらいたいのです。今回の独仏の決定は、それを織り込んだ計画としか考えられません。しかし例え自前の体制が整ったとしても1500万台分は常軌を逸しています。(笑)

そこで素直でない彼らは日欧EPAに便乗という形で、政府を巻き込み一計を案じたという訳です。締結すれば最恵国待遇になり無理も通し易くなります。要するにクリンチ作戦といえば分かり易いかもしれません。抱きついて離さないぞ、と言っているのです。おんぶにだっこと言った方が適切か?

そのため、あたかもウィンウィンの協定であるように見せかける必要がありますが、日本製完成車だけは時間を稼ぎたいのです。そこで自分たちが欲しい部品の関税だけは即ゼロにするが、欲しくもない完成車は8年かけてゼロにすると言い出しました。(笑)見え見えではないでしょうか。それでも8年後のゼロは脅威です。おそらく規格等で目立ち難い非関税障壁を色々考えているものと思われます。

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(トヨタのハイブリッドカー販売台数推移/地域別は左、累計は右側の数字、累計1000万台を今年突破したようだ)

しかしこの流れのまま進むとすれば、全世界で日本製部品が引っ張りだこになる恐れがあります。株をやっている人にとっては朗報かもしれません。縁の下の力持ち的なワイヤーハーネスの矢崎総業、住友電工あたりは狙い目ではないでしょうか。私は博打はしないので買いませんが。(笑)

ともあれ昨年の欧州向け部品輸出だけでも4658億円にも達しているのです。それが今回のEPAで桁が変わる事は明らかです。モーターだけけでも数兆円規模になるでしょうから、供給さえ追いつけば部品総額で10兆円超にだってなりかねません。その大半はどう考えても日本からになります。

結局日欧EPAで大きくメリットがあるのは重要部品の供給を安く受けられる欧州側で、日本の完成車メーカーは敵が強くなるまで指をくわえて見ているという図式になりそうです。さすがの敵塩元祖、上杉謙信も、そこまで人がよかったとは思えません。

最悪は液晶TVや半導体の二の舞もあり得ます。韓国に作れない重要部品などの生産財や製造装置などの資本財を輸出するのはいいのですが、完成品で後塵を拝する事になったのは周知の事実です。対韓国貿易黒字はその生産財などが貢献し年間3兆円もありますが、日の丸家電メーカーは凋落の一途を辿りました。

今回はその自動車編欧州バージョンで、中身が同じならコンセプトやデザインの優れた欧州車に分があります。日欧EPA、欧州側から見て、肉を切らせて骨を断つ作戦と言えるでしょう。

何度も同じ失敗を繰り返すのはただの間抜けです。日本人がそこまでの間抜けになったのなら何も言う事はありません。

(本文中で自動車生産台数の数字に誤りがありましたので7月26日に修正しました。VWグループ内でのダブリが多かったのと、クライスラーの数字が欧州分FCAにも含まれていた事が誤りの主な原因です。大変失礼を致しました。)

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コメント

なるほどよくわかりました。欧州車が日本製の部品を使用することによって、日本車の優位性が保てなくなるということですね。関税があってもなくてどちらにせよ日本製の部品をつかうなら同じだと思っていました。そのときの10パーセントは大きいということですね。こういうのは具体例を示して解説してくださるととても勉強になります。田中様でないとできないことです。ありがとうございます。

投稿: 八丈島 | 2017年7月21日 (金) 20時06分

8888888!

投稿: nangokutsuushin | 2017年7月25日 (火) 19時39分

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