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2017年10月 5日 (木)

劇的な生産性の向上は国民の所得を増やすのだろうか

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---日米 FTA消費増税 /カジノ解禁に反対します ---

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 インタビューで安倍首相は、自らが先頭に立って労働生産性向上への国民運動を展開する意向を表明。「製造業の有する生産性向上ノウハウをサービス業や地方の中小零細企業にも活用し、人材不足の解消などにつなげていきたい」と語った。

 そのうえで、今後の重点政策として「長時間労働抑制などの働き方改革をさらに前に進め、生産性向上のための改革と人づくりのための改革に一体的に着手していきたい」と強調した。(日経ビジネス5月19日)

やや旧聞に属しますが、上の記事でも安倍さんはしきりに生産性向上を訴えています。今回の選挙のマニフェストにも同じような事が書かれているのですが、本当に生産性を向上させれば国民の所得は増えるのでしょうか。

「自民党政権公約2017」

(1)北朝鮮の脅威から国民を守り抜く、

(2)アベノミクスの加速で景気回復・デフレ脱却を実現する、

(3)劇的な生産性向上で国民の所得を増やす、

(4)未来を担う子供たちに“保育・教育の無償化”を実現する、

(5)地方創生で活力ある元気な地方をつくる、

(6)国民の幅広い理解を得て憲法改正を目指す、

今日は少し前のコメントにあった読者の方からの疑問にもお答えする形で、この問題を考えてみたいと思います。労働生産性がOECD加盟国の中で20何位?とかいう不名誉なランクも、安倍さんや政府の考えに少なからず影響を及ぼしていると思われるこの問題、少し掘り下げる必要がありそうです。

まず労働生産性の定義ですが

労働者 (1人当たり・1時間当たり) の生産数量・金額など を表す。 ・成果(付加価値)を生み出すために (従業員等の)労働者がどれだけ 効率的に働いているかを意味する。 (労働者の努力や能力向上、経営効率 の改善などにより)効率性がどの程度変 化したかをみることができる。

となっています。OECD が出している数字は購買力平価換算のGDPを就業者数X平均労働時間で単純に割っているのでサービス残業などのブラックな要素は入っていません。そこだけを見てもどうなんだろうと思うのですが、計算自体が大雑把過ぎます。

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(ギリシャより低いという事が何を意味するのか、ちょっと考えれば、その胡散臭さが分かるというものだ。)

ここで出て来る購買力平価とは、例えば「1ドルと100円で同じビッグマックが買える場合、1ドルと100円の購買力は等しいと言えるので、為替レートは1ドル=100円が妥当だ」という考え方です。

これも無茶苦茶です。仕入れに対する考察がありません。お互いに生産要素や材料が同じ条件で手に入るのなら分からないでもありませんが、日本の様に海外から食料(材料)を輸入する国と米のように自給出来る国を対等に比較するのはいかにも乱暴です。

しかも日本と米とでは品質が違います。同じ価格であったとしても生産のプロセスや出来(美味しさ)に対するこだわり、熱意の差をまるで考慮しないというのは納得出来ません。もっと言うなら、国によって違う産業構造を無視して出した数字に何の意味があるのでしょうか。

日本は資本集約型から労働集約型まで幅広い産業を展開し、食料や天然資源以外は自給出来る産業構造になっています。つまり平均すると生産性がよくなり様がない産業を数多く擁している訳です。翻って、一位のアイルランドは海外からの直接投資が命綱で、二位のルクセンブルグは金融始めとする第三次産業がGDPの80%を占めます。

これでお分かりでしょうが、日本を小国で単独では生きられないアイルランドやルクセンブルグのような国の形にしてもいいと考えるか、それともバランスが取れた自国完結型産業構造を維持したいかによって数字は大きく変わって来るという訳です。人口が1億を越すような大きな国がどちらを目指すべきかは自明です。

さらに言えば、失業率の高い国程労働生産性は高くなります。効率の悪い社員はクビを切られるからです。日本のような窓際ポストはありません。(笑)移民も関係して来ます。外国人が働いて稼いだ分も、その国の人が働いた分に加算されるので、移民の多い米などは必然的に高くなります。欧州も然りです。

そんな、言わばテキトーな数字を見て一喜一憂する意味は全くありません。日本は日本独自で確立された産業構造をしっかり守って行けばいいのです。いや、もちろん日本にも問題がない訳ではなく、食料自給率はもっと上げるべきだし、低収入のサービス業にも人が向かうような政策、再分配をすべきである事は論を俟ちません。

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(途上国並みに多い日本人の労働時間、これをドイツ並にすれば労働生産性の順位は跳ね上がるが、だからと言って国民の所得が増えるかどうかは別問題である。)

さて、他国と比較してどうこうという話はともかくとして、生産性を上げる事がその国の国民の所得アップに繋がるかどうかの話をします。安倍さんが考えている事が上手くいくかどうかの検証です。

結論から言うなら経済のセオリーどうり、間違いなく所得は上がります。但し今のように政府が邪魔をする場合はこの限りではありません。(笑)そもそも人類の歴史は生産性向上の歴史です。それがあったからこそ人口が増えて発展して来ました。その証拠に労働生産性が低かった縄文時代は長い間人口が増えていません。

1万年以上かけてせいぜい20数万人ですから、恐ろしく生産性が低いと言えます。弥生人が渡来し稲作をもたらした弥生時代には爆発的に人口が増えましたから言い訳のしようがありません。これが意味するのは人間は成果(収穫物)を独り占めしなかったという事です。

そうすると農業に従事する必要のなくなった余剰人口は新しい付加価値を探し始めます。着るものに凝ったり装飾品に凝ったりして、それが産業に変わって行くという訳です。現代も考え方としては同じです。例えばある会社社長がいて生産性をよくするために工場を全てAI化、ロボット化、IoT化して従業人をゼロにしたとしましょう。

失業した労働者は何もしないでしょうか?普通は新しい仕事を求めて動きます。それが上手くいかないなら政府が再分配でその人達の生活を守ればいいのです。それは、その企業が生産した生産物を政府が買い上げて国民に配る事と同じです。

企業も折角莫大な投資をしてまで生産性を上げたというのに買い手がいなくなっては元も子もありません。社長一人では使い切れないし・・そこを徴税と再分配、あるいは場合によっては財政出動も含めてバランスをとっていくのが政府の仕事です。

財務省の手先になって財政赤字がどうのなどと惚けた事を言っていてはいけないのです。刷ったお金がきちんと循環するシステムさえ作れば何の問題もありません。つまり、雑音に左右されないしっかりした政府がいればなんの心配もないという事です。

そうすれば余剰人口は新しい付加価値を求めて動きますから、そこに文化が生まれたり新たな産業が出現したりする訳で、それが経済成長の源泉にもなります。つまり、その分の所得が増えるという訳です。自動運転の未来も同じです。必要のなくなった職業ドライバーは別の仕事に就くだけの事です。

ところで安倍さんの言う生産性向上は少しニュアンスが違います。売り上げが伸びない状態での労働時間短縮(ブラック化)による時間当りの生産性向上ですから所得は増えません。残業時間が減った分、むしろ減るのです。人手がどんどん足りなくなる日本の場合は売り上げさえ増えれば自然に生産性向上に向かうと言うのに。。

という事は、政府は黙って国民の財布と言えるマネーストックを増やす政策をすればいいのです。今のように銀行の財布でしかないマネタリーベースだけを増やしても所得アップはおろか、インフレにさえなりません。

思い切り未来の話をするなら、物の生産もサービスも全て人の手を離れた場合はユートピアが訪れます。(笑)政府は、それら全てを買い上げて国民に配るだけです。人はそのシステムのメンテと新しい付加価値を創造するだけでいいのですから、それ以外の時間は遊んで暮せます。

それさえもAIがやるようになったら・・・まあ、面白おかしく好きな事をして暮せばいいじゃないですか。きっととてつもない遊びを考え出します。未来人の創造性、想像力を信じましょう。(笑)

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コメント

劇的な生産性の向上は国民の所得を増やすのだろうか

・・・近未来(いつ頃?!)に到達するであろう『人工知能』がある程度社会を支配する未来への政府/官僚/民間による対応(あまり期待出来そうも無い日本&東西各国)以前に対応するべき課題の一つとして、今回のブログ主さんの主張は
一般国民が希望する課題は [劇的な生産性の向上は国民の所得を増やすのだろうか] なのですが、それには---日米 FTA/消費増税 /カジノ解禁に反対します---なのでしょう。緊急課題としては、半島有事の際の国民の避難方法とか、予想される大量の避難民の取り扱い方策決定等が揚げられると思います。

投稿: AZ生 | 2017年10月 7日 (土) 06時55分

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