EVはHVを超えられるのか?
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また随分間が空いてしまいました。公私共に忙しく、前回更新の後1月31日までは土日もない、時間に追いまくられる日が続いていたのです。毎日のように来て頂いている読者の方には大変申し訳ありませんでした。
さて今日は久々クルマの記事を書きます。まず昨年の世界全体での機種別販売台数ランキングです。
1. トヨタ カローラ:116万495台
2. ホンダ シビック:83万3017台
3. フォルクスワーゲン ゴルフ:78万8044台
4. トヨタ RAV4:78万6580台
5. ホンダ CR-V:75万3359台
6. フォード Fシリーズ ライトデューティー:73万596台
7. フォード フォーカス:65万6071台
8. フォード エスケープ:63万2529台
9. フォルクスワーゲン ポロ:61万4827台
10. トヨタ カムリ:56万9760台
11. 五菱 宏光(ウーリン ホングァン):53万4251台
12. 日産 キャシュカイ:52万6970台
13. ホンダ アコード:52万4914台
14. トヨタ ヤリス ハッチバック:51万8736台
15. フォルクスワーゲン ラヴィーダ:51万4589台
16. ヒュンダイ ツーソン:48万4322台
17. フォルクスワーゲン ティグアン:47万158台
18. シボレー シルバラード:46万5319台
19. トヨタ ハイラックス:45万9984台
20. 哈弗(ハバル) H6:44万8188台
ベスト5に日本車が4機種も名を連ねていますが、大衆車に強い日本自動車産業のビジネスモデルが浮き彫りになっています。一方20位までに御三家といわれるジャーマンスリーからは一機種も入っていないのが興味深いです。売上高では70兆円のトップ日本勢に肉薄するドイツブランド(60兆円)ですが、量より質で勝負しているのが見て取れます。
因に国別の平均価格で見るとダントツドイツが一台約400万円、二位の日本が250万円程ですから差は歴然です。後はドングリの背比べで大差はありませんが、英国車は除外しています。殆ど大衆車を有せず、年間50万台程しか生産しない英国車は参考になりません。スウェーデンも同じ理由です。対象は200万台以上生産している国としました。
しかし日本で、拡大再生産の空しさに気付いているメーカーがどれだけあるでしょうか。トヨタの豊田章男社長は販売台数トップ争いにうんざりしたのか、はっきり今後は量より質だと言っていましたが、そこまで言い切る経営者は少ないです。漠然とどちらも取りたいと思っているのではないでしょうか。
いずれにしても、日本には高級車を造る技術は全てありますから、後はコンセプト創造力とデザイン力です。その辺りは急に身に付くものでもないので急げとは言いませんが、将来的にドイツ型、英国型が目指せるように今から準備しておく事が肝要です。
未だに貴族が存在していて、格差社会が当然の欧州とは文化が違うと言われればそれまでですが、それなら1億総上流を目指せばいいのであって、それを不可能と決めつける必要も根拠もありません。私はそう思います。
そこで、という訳でもないのですが、トヨタがGRスーパースポーツコンセプトという名の面白いクルマを発表しました。(上)2016年のル・マン24時間レースで残り3分までトップを走っていたレーシングカーがベースです。
今年の東京オートサロンに出展されたそのクルマは、明らかにレーシングカーの出で立ちをしていました。量産車には程遠いデザインと言わざるを得ません。
ところがトヨタは性能も含め、なるべく変えない形、つまり車検に通る最低限の変更で市販するつもりだと言うのですから吃驚です。一体いくらで誰に売るつもりなのか、そしてその真意はどこにあるのでしょうか。
ところで、ここで熱効率の話をしたいのですが、通常のガソリンエンジン車は30%程度と言われています。つまりエネルギーの70%は捨てる訳です。これがハイブリッドカーになると効率の悪い低速域を負担しなくて済むのでぐっと上がります。
中高速域に強い専用の、例えばアトキンソンサイクルエンジンを積めば新型カムリの場合、エンジン単体での熱効率は41%にもなると言います。さらにエネルギー回生分を入れると使われ方にもよりますが50を超え55%が視野に入って来ると言いますから凄い話ではないでしょうか。
LNG火力発電の熱効率が50~60%ですから正に効率のいい発電所並みです。これが何を意味するのかと言いますと、将来を約束されている筈のEVの未来に大きな暗い陰を落としかねない、という事です。つまり火力発電の電力を使う限りEVと言えども熱効率はハイブリッドカーと大差ないと言えるのです。それはCO2排出量が結果的に同じ、という事を意味します。
そこで現在の日本の発電状況ですが、原発が殆ど稼働していない今、未だ存在感の薄い再生可能エネルギー分を除けばLNG発電が最も効率が良いという事になります。これが発電の全てなら未だ希望が持てるのですが、実際は熱効率36%の石炭、石油の火力発電が全体の40%近くを占めるので平均すると50%に届きません。
そうすると現状で言えば、EVを造れば造る程、発電所からのCO2排出量は増える事になります。効率の悪いガソリンエンジン車と置き換わるのであれば多少はましですが、それもEVに不可欠なリチウムイオン電池を製造する過程で大量に出るCO2と相殺されてしまうのです。
さらに言えば発電所で造られる電力は送電の過程で5%程度のロスが発生します。さらにEVに届いても、自然放電等、意図しないマイナス要素が多々あり、減速で得られるエネルギー回生分を相殺してしまう程です。これがHVであればロスは殆どゼロです。ガソリンスタンドでガソリンをこぼす人がたまにいるかも知れませんが、まあ無いに等しいでしょう。
しかもこの場合は発電所から排出されるCO2は殆ど増えません。HVにもリチウムイオン電池は積みますがEVの数十分の1ですから大した数字にはなりようがなく、それどころか通常のガソリンエンジン車と置き換われば、クルマが直接出すCO2はむしろ減っていくのです。勝負は目に見えていると言わざるを得ません。
そこで彗星の如く現れたトヨタのGRスーパースポーツですが、これは熱効率50を超え、最終目標は60%だというのです。LNG発電所並みのこの数字を達成した暁には現行EVがWELL TO WHEEL で排出するCO2量をかなり大きく下回る事になり、EVの長所が消え去ります。
つまりトヨタがこのクルマを市販する意図は、最高効率のシステムを実験的に市場に投入する事と、今後20年はハイブリッドの時代が続くという事を高らかに宣言する事にあると言えるのです。言わばストロングハイブリッドが苦手な欧州に対する、無言の勝利宣言でしょうか。
もちろん今後原発や再生可能エネ発電が大幅に増えるのであれば話は別ですが、楽観的としか思えない2030年度の電源構成目標を見ても、未だ30%近くは石炭、石油です。HVのさらなる進化を考えれば、とても安心は出来ません。
さらに、それだけでなくGRスーパースポーツには最先端のコネクティッド技術が搭載されると言います。クルマからの情報をクラウドに上げ、AIが分析して、フィードバック、陰でドライバーを見守り支えるというのですから心強い限りです。
航空機のコンピュータ支援システムの地上版、スポーツ走行のための高度運転支援という訳です。1000馬力もあるスーパースポーツの性能を引き出そうとすれば、人間の能力を超えるケースが出て来て当然です。そこをAIがカバーするというのですから正にスーパーハイテクマシーンと言えます。
それにしてもトヨタのこの余裕、シャレたやり方、分かる人が見れば一目瞭然で、ドイツ人技術者らが焦る様子が目に見えるようです。またルールが変わりますよ。(笑)
(参考、自動車評論家、池田直渡氏の記事)
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コメント
田中さん、UPありがとうございます
今日の記事を読んで安心しました。世界の車はすべてEVになるようなマスコミの報道を見ていて、中国はもちろん欧米も日本のHVにはとても敵わないのでEVに逃げ込んでいるのだろうと考えていました。それを確信させてくれる記事ですね。ありがとうございます。
過日、10月26日の記事に「トヨタのタクシーキャブ」がありました。私の住む中野でもボチボチ見かけるようになりましたが、色も形も「ダッセー」と思わず笑ってしまいます。
投稿: ナベ | 2018年2月 2日 (金) 15時57分
いいね!
田中さんのご意見も池田直渡氏の評論も素晴らしい!
WELL TO WHEELをもっと考えなければ地球環境は良くなりませんね。
ナベさん、小生も東京に行くとき極まれにタクシーキャブ見かけますが、お世辞にも乗りたいと思いませんね~(笑)
投稿: go to | 2018年2月 2日 (金) 16時12分
田中さんならではのいいお話ですね。最高です。この話もっと拡散したいです。そうすればどれだけ我々日本国民が勇気づけられることか。
投稿: 八丈島 | 2018年2月 9日 (金) 19時31分
私も、IT系新興自動車による、情報操作に、マンマと、騙されそうでした!が、よく考えてみたら、エンタルピーの法則で、理解できます。使ったカロリー➕棄てたカロリー=燃料のカロリー
投稿: 兵藤 | 2018年3月 8日 (木) 18時22分