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2019年1月26日 (土)

EV化というワードに踊らされる日本マスコミ

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今日は久々自動車の話をします。

先日のテレ東WBSでコメンテーター(エコノミスト)の一人が「EV化で出遅れたトヨタが・・」と言っていました。未だこんな事を言う人がいるのかと口あんぐりですが、日本のマスコミのレベルは世の変化とは関係なく何も変わっていないようです。

あの、いいですか。(笑)ハイブリッド車というのは一種のEVなのです。思い切り分かり易く言えば、EVにガソリンエンジンをプラスしたのがハイブリッド車で、EVとガソリン車双方のいいとこ取りをしている訳です。これは過渡期の技術などではなく既に確立された持続可能な先端技術と言えます。

と言うのは、シンプルで二次電池以外には発展の余地が大して残されていないEVと違って無限とも言える可能性を秘めているからです。分かり易いところでは燃費です。モデルチェンジ毎に改良されます。価格も低廉化が進んでEVとは致命的な差が開きました。その構造のバリエーションもデバイスの組み合わせによって無数にあります。

例えばロータリーエンジンとの組み合わせや、エタノールを使ったFFV(フレックス燃料車)とのマッチングもあり得るのです。その他、新しいアイデアは今後も日本を中心に続々と登場して来る事でしょう。

日産が販売好調で得意になっている e-POWERですが、実はこれもシリーズハイブリッドと呼ばれるハイブリッドシステムです。ハイブリッドで出遅れた日産はそう呼びたくないようで、レンジエクステンダーなどと嘯いていますが、ユーザーを欺くようで感心しません。

本来のレンジエクステンダーはEVベースで、航続距離の足りないところを補うために小さめのエンジンを積みます。あと100キロくらいは走りたいなあ、と言う気持ちに応えるのがこの方式です。従ってバッテリーの量がシリーズHVとは致命的に違います。BMWの i3がこれに相当します。

一方の e-POWERは重くて高いリチウムイオン電池の代わりに発電用エンジンを積みます。という事は出力も搭載するモーターに見合った大きなものが要求されるのです。この場合、殆ど発電しながら走りますからガソリンも普通のガソリン車並に積む必要があります。

ただ、日産ノート e-POWERのケースは既存のエンジンをそのまま発電用としているのでベストな仕上がりとは言えません。この割り切った方式の場合、発電専用エンジンにすればもっと効率を上げる事が可能だというのに、なぜか採用していないのです。

それを実直に実行し、発展させたのがホンダのアコードやオデッセイに搭載されている2モーター式ハイブリッドシステム、iMMDです。基本構造は e-POWERと似ていますが、より高効率にするために色々工夫が凝らされています。

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(内容は素晴らしいオデッセイ・・しかしデザインが・・)

モーターは得意な低速域のみを担当し、その時発電用に徹する専用のアトキンソンサイクルエンジンは80キロ以上の高速では駆動用に切り変わり駆動輪直結となるのです。正にいいとこ取りです。

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(iMMDは三菱アウトランダーPHEVと近い方式/静止状態での充電が可能かどうかと電池の量の差か)

この劣化板とも言えるのが日産の e-POWER方式ですが、後発なのになぜ?という疑問が拭えません。これだと80キロを超える高速では燃費がた落ちです。さらにブレーキペダルを踏んでもエネルギー回生はしないと言います。

要するに普通の走り方をしたのでは高燃費が維持出来ないのです。ユーザーにメーカー都合の走り方を強いるのでは車として一人前とは言えません。メーカーの姿勢にも疑問符が付きます。

付け焼き刃的でやっつけ仕事的なこの日産式シリーズハイブリッドは過渡的なものと言えるでしょう。進化版のモデルチェンジが待たれます。ゴーンさんのいない日産なら期待出来るのではないでしょうか。

ちょっと横道にそれましたが本題に戻ります。意外かも知れませんが、実は欧州がEVへの繋ぎとして本命視しているのはプラグインハイブリッド(PHV)とマイルドハイブリッドです。前者は限りなくEVに近く、後者はガソリンエンジン車に近い存在だと言えます。

素朴に今なぜそこ?という疑問が浮かびますが、トヨタやホンダのようなストロングハイブリッドが上手く開発出来ないので逃げているのでしょうか。PHVの場合はEVが持つ、高い、重い、充電が面倒というネガをそのまま持っています。これこそ繋ぎ技術と言って差し支えありません。

一方の簡便で低価格なマイルドハイブリッド(発電と駆動を兼ねる1モーター方式)はいずれ途上国の本命になると思われます。日本では小型車しか持たないスズキが採用し実を上げていますが、この構造も未だ未だ改良の余地がありそうです。

以上、ハイブリッドシステムのポテンシャルとメカとしての面白さがお分かりいただけたでしょうか。全てのカテゴリーに対して柔軟に対応可能なこのシステムの熱効率はトヨタによると55%(理論値)が目標だと言います。(今は40%前後か)

この数字を額面通り受け取れば、従来の電力インフラを使う前提だとEVのWELL TO WHEELでの熱効率と大差ありません。その意味はCO2排出量が同等という事なので、EVの唯一と言えるアドバンテージに赤信号が灯る訳です。

実はこれにはパラドックが隠されていて、折角EVを増やしたとしても、その分の電力を効率が最も悪い石炭発電に依存するのでは返ってEV全体の熱効率が下がります。EV増加分は再生可能エネルギー発電を増やす事によってのみ意味のあるものとなるのです。

いずれにしても電動化はEVと多様化するハイブリッド群の棲み分けによって進んで行きますが、10年以内に純ガソリン車が消えてしまう事はあり得ないし、EVが30%以上のシェアをとる事も考え難いと思われます。電動化全体で50%に達したとしても、その大半はハイブリッド車になるでしょう。

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( EVの製造コストの3分の1から2分の1を占めるとされるリチウムイオン電池。その電池を構成するのが、正極材、負極材、電解液、セパレーターといった主要4材料だ。それぞれの材料において、日本メーカーが存在感を発揮している。

正極材でトップを走るのが住友金属鉱山。電池を高容量化することが可能なニッケルの含有率が高いニッケル酸リチウムを使用し、原料からの一貫生産を手掛ける。

 2018年中にも約40億円を投じた磯浦工場(愛媛県新居浜市)の設備能力増強が完了し、従来比約3割増の月産4550トン体制となる。パナソニックと共同で開発しており、最終的には米テスラ向けに供給されている。)

さらに電動化に関してはは技術だけでなく、そのための部品供給インフラ、サプライチェーンを必要としますが、それが質量共に確立しているのは日本だけです。国内に電動化のための部品製造会社が山のようにあるのです。

ドイツなどは長年ディーゼルに傾倒して来たツケが廻り、国内にEV化のための部品インフラを持ちません。メンテナンスのためのサービスインフラさえないのです。全てこれからなのですが、昔からEV先進国だったような顔をしています。(笑)

肝心なリチウムイオン電池さえないので、取りあえず中国から調達するなどと言っているのです。他の重要部品は日本からになりますが、それを見据えての日欧EPAでした。ここでも日本は手玉に取られています。

しかし、それで高級ブランドとしてやっていけるのか人ごとながら心配になります。韓国製リチウムイオン電池はよく燃えると定評がありますが、中国の電池は韓国経由と思われます。燃える高級車ではシャレにもなりません。

これでお分かりのように、出遅れではなく、世界で最も電動化が進んでいるのがトヨタであり日本メーカーとその部品供給インフラ、サービス網なのです。これ程明々白々な事実は滅多にあるものではありません。EVは時期尚早として期を伺っているだけです。

今のEVでは賢明な日本人ユーザーは一部のもの好きを除いて誰も買いません。それが分かっているからこそ日本メーカーは慎重なのです。それにしても、あのWBSの人、出遅れていないのはどのメーカー(国)をイメージしていたのでしょうか。全く謎と言うしかありません。

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